お刺身を食べたあとに激しい胃痛・・・みなさん一度は聞いたことがあるアニサキス。ブログ記念すべき初回はアニサキスについて書いてみたいと思います。胃痛で受診された方には必ず「昨日お刺身食べませんでしたか？」と聞くようにしています。

 

アニサキスの生態

アニサキスの成虫はクジラやイルカなどの哺乳動物に寄生しています。（上野の科学博物館にクジラの腸管に寄生した無数のアニサキスの標本展示があります。衝撃的です！）糞便とともに虫卵が海水中に排出され、幼虫になったアニサキスをオキアミなどが捕食します。そのオキアミを捕食した魚介類や、そのまた魚介類を捕食した魚介類にもアニサキスは寄生しています。

アニサキスの症状

原因となるお魚を食べてから数時間から半日くらいで激しい胃痛が起こります。上腹部の痛みで苦悶している方もいれば、健診の胃カメラなどでたまたま見つかる無症状の方もいます。アニサキスの症状は、嚙みつかれたことによる痛みではなく、アレルギー症状だと考えられています。たしかにあんなに小さな虫が嚙みついただけでこんなに痛みがでるとは思えません。内視鏡でアニサキスの噛み口の周囲がむくんでいることを見ても、やっぱりアニサキスはアレルギー症状なのだなぁと思います。アニサキスに対するアレルギー反応が強い人が痛みを感じるのであって、アニサキスに噛みつかれてもなにも感じず、おいしくお魚を食べている人も大勢いるのだと思います。

アニサキスのいる魚

もっとも多いのが何と言ってもサバ、酢でしめた「しめさば」ではアニサキスは死にません！！　ほかにもサンマ、アジ、イワシ、カツオ、サケ、イカ、タラなど。タタキなどでもアニサキスはいます。ただしいちど冷凍した魚ではアニサキスは死滅していますので、マグロにはいません。冷凍していない生マグロにはいるみたいですが、私は食べたことないのであしからず。つまり日本近海で捕れる新鮮なお魚を食べるとアニサキスのリスクがあるわけです。私がかつて勤務していた銚子近くの旭中央病院では本当に多くのアニサキスを見ました。もう日常風景です。いちどに5匹のアニサキスが噛みついていたこともありました。それだけ新鮮なお魚を皆さん食べているということですね。

アニサキスの予防

アニサキスを確実に死滅させるには、「-20℃で2日以上」、「60℃で5秒」、「100℃で瞬時」と言われています。つまり冷凍か、しっかり焼くことです。繰り返しますが、酢でしめても、タタキでも駄目です。養殖魚にはまれとされています。鮮度がおち、内臓が腐敗し始めると内臓から筋肉へ移行してくるといわれています。鮮度がおちたお魚を生で食べるのは避けたほうがいいと思います。

アニサキスの治療

アニサキスはいずれ数日で死んでしまうのですが、痛みの強い患者さんを放っておくわけにもいきません。もっとも有効なのは胃カメラで噛みついているアニサキスを取り除くことです。アニサキスを疑って胃のなかを探すときは、不自然にむくんでいる部分が目安になります。むくんでいるひだをかき分けると、「アニサキス見―つけ！」とちょっと嬉しくなります。噛みついている虫体をひっぱるのではなく、噛み口の頭部を残さないように正常粘膜ごとしっかり取るようにしています。元気なアニサキスは鉗子で取り除いたときにとぐろを巻いたりします。しっかり取り除くと痛みはまもなく消失しますが、念のためにアレルギーの薬を出すこともあります。

アニサキスについて私が思うこと

たまにアニサキスによる食中毒でお店が営業停止の記事をみかけます。新鮮なお魚を食べるということは少なからずアニサキスのリスクがあるわけで、どうしようもない部分もあるかと思います。もちろんお魚がいたむ前に内臓を取り除くなどの処理が大事だと思いますが、100%防ぐというのは難しいのではないでしょうか。少なくとも、私は患者さんに「お店がわるいわけではないと思います。それだけ新鮮なお魚だったということだと思いますよ。」とお話しています。私が内視鏡でアニサキスを除去したせいで、お店が営業停止になってはいたたまれません。もうおいしいお刺身食べるのやめますか？　わたしは多少のリスクには目をつむって、これからもおいしいお刺身を食べようと思います。

 

さらに詳しくは・・・

2025年1月に内閣府食品安全委員会が公式見解を発表しています。
食品健康影響評価のためのリスクプロファイル～アニサキス～