ひどい下痢です・・・
昨日からひどい下痢です。。。といって受診される方が多くいらっしゃいます。普段おなかの調子はなんともないのに、急に腹痛、下痢がはじまったという場合は、食中毒(感染性胃腸炎という病名になります)のことが多いです。今回はよく見られる食中毒についてお話しします。
よく思い出して!
下痢となった前の食事をよく思い出してください。直前の食事だけでなく、数日前の食事が原因となることもあります。詳しく問診することによって病態を推理することができます。聞き込みをする刑事(デカ)の心境です。もちろん私はプロなので食中毒以外のことも念頭にいれてお聞きしています。
食中毒の主な病原菌
ノロウィルス
生ガキを食べたあとから下痢といえばノロウイルスです。感染力が非常に強いため、生ガキを食べていなくても、トイレなどで接触感染のこともあります。食中毒で最多です。生ガキおいしいですよね。覚悟して食べましょう。
カンピロバクター
カンピロバクターといえば生焼けの鶏肉です。潜伏期が長いのが特徴で、下痢になる直前ではなく、2~7日間くらい前の食事を思い出してください。焼き鳥食べませんでしたか?ほとんどの鳥がカンピロバクターに汚染されていると考えたほうがいいです。よく焼きましょう。鳥刺しなんてもってのほかです。
サルモネラ
サルモネラといえば生肉と卵です。生肉をさわった調理器具はしっかり分けましょう!古い卵の卵かけごはんはやめましょう。日本は衛生的だから気にせず食べますが、外人は生卵食べませんよね。あとはペット、特にカメなどの爬虫類は多くが保菌しています。お祭りのときのミドリガメ飼っていませんか? 潜伏期間は短く8時間~48時間です。
ウェルシュ
カレーやシチューを何度も温めなおしながら食べませんでしたか?芽胞を形成し加熱しても死滅しませんのでご注意を。常温保存はやめましょう!
腸炎ビブリオ
ビブリオといえば魚介類が原因です。真水や熱に弱く、低温ではあまり増殖しません。魚介類は水でよく洗い、短時間でも冷蔵庫で保存しましょう。潜伏期間は短く8時間~24時間です。
O-157(腸管出血性大腸菌)
以前大阪堺市で児童の集団発生がおき、亡くなられた方もいて世間を騒がせましたよね。多いのは牛肉ですが、プールや井戸水などの水関係にも注意です。潜伏期間は3-5日。発症後1週間ほどで溶血性尿毒素症候群(HUS)という重篤な合併症を起こすことがあるので要注意です。字のごとく血便を伴うことが多いです。
治療の3原則
原因菌の種類は違えど、治療の原則は変わりありません。
①下痢止めを使用しない!
下痢はばい菌や毒素を排出している状態ですので、下痢止めを使うのではなく、出るものは出しましょう。
②抗生剤は原則不要!
抗生剤が原因の下痢も多く原則使用しません。通常数日の経過で自然回復してくるので、それをサポートする意味で整腸剤(善玉菌の補給)を使用します。
③脱水に注意!
腸管を休めることも治療です。症状が強いときは無理に食事を取る必要はありません。下痢や嘔吐、食欲不振による脱水には注意しましょう。こまめな水分補給を。
食中毒を防ぐ3原則
①つけない
まな板や包丁を食材によって使い分けましょう。特に肉や魚! 最後に切るようにしましょう。
エコバックにも注意! 液体が漏れてばい菌が付着する恐れもあります。定期的に洗いましょう。
②やっつける
内部までしっかり火を通しましょう。80℃以上で最低1分加熱。
③増やさない
調理したものは常温保存しないようにしましょう!とくに夏は注意。
夏は弁当に保冷剤をつけましょう。弁当に詰める際は粗熱を取ってから。
すばらしきヒトの体!
下痢って本当につらくて困りますが、よく考えてみてください。有害なばい菌が体に入ってくると、下痢をして排出するメカニズムって素晴らしすぎませんか?私たちの腸内には40兆個もの細菌が存在すると言われ、複雑なネットワークを形成し、宇宙ともいえる世界観を形成しています。その環境をかき乱す侵入者を的確に認識し、一気に排出するように宇宙をひっくり返すしくみ。下痢のときはたいへんつらいと思いますが、我々の体に備わったこの見事な防衛システムに畏敬の念をもって、しばらく堪えてください。